書評:磯田 道史(2003)『武士の家計簿』新潮社

加賀藩の武士の猪山家一族(3代にわたる記録)の幕末から明治にかけて家計が克明な家計簿によって現代によみがえった。仕事は徳川家から前田家に嫁いだ「姫君様のそろばん役」から明治政府の海軍省の経理に引き継がれていく。著者は武士は一般に「どんぶり勘定」との可能性を記している。近代化とは財政や家計管理なのかもしれない。

同書の基になる研究は天保13(1842)年7月から明治12(1895)年5月まで、約37年間(36年分)にわたる古文書を神田の古書店で入手したことから始まった。

1842年といえば、英国が清と戦ったアヘン戦争の2年後、米国からの艦船外交(黒船来航)の9年前である。貨幣経済の発達で幕府や各藩は財政に苦しみ、水野忠邦は綱紀粛正と奢侈禁止を命じた天保の改革の時代である。

古文書が残る1842年7月時点で、猪山家の負債総額は年収の2倍にのぼり、年利は15~18%にのぼっていた。年収の2倍の負債は当時としては平均的な姿だった。猪山家が他の武士と違うのは、家計簿を記録して家財を整理して借金を清算したことなのだろう。

家計にしろ企業会計にしろ、そろばん役の重要さは現代で生きている。

武士の家計簿 ―「加賀藩御算用者」の幕末維新 (新潮新書)