ピケティがつないだ100年間の所得分配

ピケティがつないだ100年間の所得分配
トマ・ピケティは『21世紀の資本』の人気で一般にも知られる学者となった。統計の観点からピケティらの研究グループの業績を評価すれば、すでに30カ国で主に所得税資料を活用して所得を推計して国際比較を容易にしたことである。日本は1886年、ドイツは1891年、フランスは1990年、英国は1908年、米国は1913年と先進国では100年にわたり、所得分配統計を整備させ、アジア・アフリカなどへと対象を広げている。書籍では100枚以上の図表を使い、主に資産格差の拡大を指摘し、国際的で累進的な資産課税提案につなげた。600ページもの大作で脚注が明記されている点では専門書だが、数式で難解な経済論文ではない。年初の米国経済学会年次総会の分科会「21世紀の資本」にやってきた彼は実に情熱的な人だった。フランス語なまりの英語でハーバード教授のグレゴリー・マンキューら4人の討論者に一人で反論した。わかりやすい論考ゆえに、同業者から批判の対象となることで、分配や格差への関心が続くものと期待される。
留意点は統計により格差に差異が出ることだ。所得税をベースにすればサンプル数が増加するが家計調査より格差が大きく見える。家計調査であれば、年金、失業給付、生活保護などの社会福祉給付が収入に記録される。統計の罠については書籍以外にサイトで公開される資料を合わせて読む必要がある。前回も登場したクズネッツは1955年、経済成長の初期には所得分配は悪化しがちだが、成長に伴い分配が改善すると示唆した(逆U字仮説やクズネッツ曲線)。一人あたりGNP/GDPをX軸に、ジニ係数など所得分配指標をY軸におくと、「逆U字」形の曲線が描けるというものである。ピケティの問題意識もこの反証から始まっている。

本寄稿の全文は、小原篤次「統計で読むアジア第3回」『Int’lecowk』2015年3月号、国際経済労働研究所で掲載される。